大きな吹き抜けのある家

家族や友人が集まるリビングを明るく広々とするための方法として、吹き抜けがあります。頭上の開放感は気持ちがいいですし、部屋を実際の帖数よりも広く見せる効果がありますが、構造面や冷暖房効率、照明の配置など、注意しなければならない点もあります。今回はRC住宅で拭き抜けを設ける場合で、注意したいポイントを紹介します。

構造計画

「家の中心に吹き抜けや階段があると家が弱くなる」ある家相の本にこう書いてありました。

今でこそ木造住宅も構造計算で安全性を確認するのが当たり前ですが、その昔、強い家は大工の勘と経験がモノを言う時代の教えだろうと思います。

その解説では、当時の家(在来木造)の中心には太くて強い大黒柱があるのが一般的で、ここに吹き抜けや階段があると大黒柱の位置がずれたり(偏芯)、太い柱が設置できないと家の強度を低下させることになる、とのことでした。

私たちが建てるRC住宅のほとんどは、耐力壁で建物を構築する「壁式鉄筋コンクリート造」です。在来木造とは違って大黒柱はありませんが、大きな吹き抜けや階段を設けるには同じように構造面でも注意が必要です。

壁式鉄筋コンクリート造は、床・壁・屋根の6面が一体化した構造体です。床・壁・屋根を鉄筋コンクリートで一体化して造る工法のため、木造や鉄骨造のような部材の「継ぎ目」がなく、堅牢な6面体がいくつか集まって、地震や台風といった強い外力を吸収し分散します。

ただし完全一体化した構造体も、どこかに「大きな穴が開いている」状態では、大きな外力が加わった場合、強度が発揮できず壊れてしまいます。6面体のひとつを、ダンボール箱に見立てて説明します。

紙のダンボール箱も、しっかりと蓋をすれば少々重いものを入れても丈夫ですし、積み重ねても、横から押してもまず壊れることはありません。

ところが側面や上蓋に大きな穴が開いているとなると、力が全体に均等に伝わらず、箱の強度は下がってしまいます。

壁式鉄筋コンクリート造の場合、上蓋の大きな穴に該当するのが「吹き抜け」となります。

いくら堅牢な鉄筋コンクリート造とはいえ、構造的な考えを無視して吹き抜けを設けることはできません。

壁式鉄筋コンクリート構造には安全性が確保できるように、XY方向に設ける壁の量や壁の厚み、壁梁の高さなどの技術的基準が設けられています。

下はリビングの上部に吹き抜けのある2階の平面図です。

建物が地震や台風といった強い外力を受けた時、その力は主に水平面(=床スラブ)を通って各部の壁に伝達されます。

吹き抜け部分は床がありませんので、水平力は周囲の壁や床を迂回して流れることになります。吹き抜け周囲の床の幅を適切に設けたり、壁の厚みや強度を上げることで安全性を確保するのですが、RC住宅で吹き抜けの設計にあたっては、こうした力の流れを理解しておくことが重要です。

以下は構造計画として好ましくない事例を挙げています。

※あくまで基本的な考え方で、床や壁の剛性を上げたり、水平力を伝達させるために梁を設けたりすれば安全性を確保できる場合があります。

照明計画

天井が無い吹き抜け空間には、どんな照明器具を設ければいいのか?その空間をイメージできないと、きっと悩まれることだと思います。

このコラムでは、照明専業メーカーNo.1の規模を誇る大光電機さんの吹抜け照明テクニックや役に立つノウハウを集めた「吹抜照明」カタログhttps://www2.lighting-daiko.co.jp/led_products/catalog/の中から、「地明かり」と「明るさ感」についてご紹介します。

例えば2階建の住宅で、1階リビングの上部を吹き抜けにすると、床や天井の面積は同じでも、壁の面積や空間の容積は約2倍になります。

壁の面積や空間の容積が大きい吹き抜け空間では、空間全体を一灯だけで照らすことは困難です。

吹き抜けのある空間の照明計画のポイントは、生活に必要な作業照度である「地明かり」を目的とした照明器具と、心理的な快適さを得るために必要な「明るさ感」を目的とした照明器具を組み合わせて計画します。

1層空間の2倍になった吹き抜け壁面の明るさ感が不足すると、空間全体が暗いと感じやすくなります。天井付けのシーリングライトの場合で比較すると、

通常の天井高なら、空間の明るさ感と地明かりは1灯で同時に確保できるのですが、吹き抜けのある空間に1灯であれば空間の明るさ感は確保できるものの、地明かりが不足して手元が暗くなります。

吹き抜け空間の照明計画では、照明器具の役割を明確にした「多灯配灯」で、空間の明るさ感と地明かりの両方を確保します。ペンダントライトとスポットライトを使用した場合で比較してみます。

ペンダントライトだけでは空間の明るさ感は確保できるものの、地明かりは不足しています。一方、スポットライトだけでは地明かりは確保できますが、吹き抜け上部の明るさ感は不足し空間全体として暗く感じます。

そこで双方を組み合わせ、ペンダントで空間の明るさ感を、スポットライトで地明かりをしっかり確保することで吹き抜け空間の照明計画は完成となります。

※吹き抜け照明の「地明かり」と「明るさ感」についての記述は大光電機㈱「吹抜照明」カタログより引用しております。